前々回、「CO2削減とものづくり日本(1)」の続きです。
「オフショア・エミッション」という言葉はご存知でしょうか?
英国の大学のチームから出た報告書(「Too Good To Be True? The UK’s Climate Change Record」)を中心にご紹介いたします。
英語ではありますが、よろしかったら以下が原本になります。
http://www.dieterhelm.co.uk/publications/Carbon_record_2007.pdf
温暖化対策の先鋭とされる欧州の英国では、京都議定書ベースの温室効果ガスの排出に関しては、1990年⇒2003年においては、15%の削減をなしとげてCO2削減の優等生とされていますが、製品の輸出入によるCO2排出等も自国の排出責任として含めた場合(消費ベース排出量)には、同じ期間で19%も増加していたと計算されたというものです。(上記PDFの26ページのグラフがわかりやすいです)
こんなレポートが自国の大学から出るところがこの国の良いところであり、強さだと思うのですが、それはさておき、なんでこんなことが起きてしまうのでしょうか?
簡単に言いますと、英国は、国内では、製造業(一般的にたくさんのCO2を出す)から金融(ほとんどCO2を出さない)といった産業への移行を進めていった効果(石炭からガスへの集中転換も大きい)もありCO2が減っていきました。
しかし、当然、自国で「物」を生産しなくなったからと言って「物」が必要でなくなったわけでなく、貿易によってその収支の調整をはかっていった。
貿易による輸入分をプラスに、輸出分をマイナスのCO2量として加味して、また他の細かい要素も加えて合算をしてみたら、実は英国経済全体ではCO2は増加していたということです。
絵にするとこんな感じになります。
まずは、模式図中の記号の意味です。
これの推移を見てみると、京都議定書ベース(表上段)では排出量は減っているが、輸出入を含む消費ベース(表下段)で見てみると、排出量は増えている。
中国などはこの視点でもって、以下のような開き直りともとれる発言もあるようです。
「中国政府気候変動省トップは、今や中国のCO2排出量は、15%から25%が世界へ輸出する製造活動に起因しており、この排出量への責任は中国製品を買う輸入国にある、という意向を明らかにしました。」
http://gpress.jp/csrnews/archives/2009/04/02-091140.php
さて、話を戻しますと、このレポートでは、貿易している商品の種類など関係なく、国ごとの輸出入額に、相手国のGDPあたりのCO2排出量を掛け合わせてプラス/マイナスとして、その収支を算定をするという、非常にラフな計算をしています。
例えば、英国と中国との貿易の場合では、
1992年では
輸入 890 m£ * 7,450 tCO2e/$m = 13 MtCO2e
輸出 568 m£ * 608 tCO2e/$m = 0.6 MtCO2e
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収支 12.6 MtCO2e
1,260万トンのCO2の輸入だったの対して、
2006年には
輸入 17 b£ * 4,140 tCO2e/$m = 130 MtCO2e
輸出 4.7 b£ * 458 tCO2e/$m = 4.2 MtCO2e
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収支 125.8 MtCO2e
ただし、
b£ = billion pounds
m£ = million pounds
$m = million dollars
1.26億トン(1992年比で、約10倍)ものCO2の輸入をしているということです。
それにしても、すごい量です。
レポート内でも認めるとおり、貿易している商品の種類も加味していないため、今回のレポートの計算が非常にマクロ的なもので、正確性を欠いていることは間違いがありません。
しかし、一方でこのグローバル化の時代にあって、どの国も、自国だけで完結して経済を支えているわけではないことも事実で、そのような状況下で、貿易による、国境を越えたCO2の排出量収支についても見ていく必要があるということは、非常に重要な提言であると思われます。
少なくとも現在排出され続けているフロー分のCO2排出(過去のストックについては別の話です)について「フェア」な見方をするには、こういった輸出入に関する排出量の精度をあげて、各国の削減目標に加算/減産していく枠組み、各国で合意をした見える化の標準を整備していくことも、世界として本当にCO2削減を進めるのであれば、重要なのではないかと思います。
日本的な立場からしますと、
「Made In Japanの物を買っていただくと、、使用時にも省エネになりますけど、他の国よりも、製造時のCO2の量が低いから輸入に伴うCO2の加算分は少なくてすみますよー」
ということで、「ものづくり日本」の立場を保ちつつ、地道かつ技術革新的なCO2の削減努力(日本ならできるはず)が見える化して、日本の国際競争力、ひいては世界でのCO2の削減努力の一翼をしっかりと担うことになるのではないでしょうか?
経済産業省が推進している、LCA(ライフサイクルアセスメント)に基づき、CO2の見える化を進める日本の「カーボンフットプリント制度」も、こういった世界全体の枠組み、CO2の削減に貢献するものへと成長して欲しいと切に願っています。
最後に、こういった話は、
イギリスを始め欧州が如何にしたたかな国際交渉をしているか、とか、
キャップ&トレードはけしからん、
ひいては排出権や排出量取引自体がマネーゲームで意味が無い
といった批判と共に話にあがりやすいのですが、私は決してそうではないと考えています。
現在のキャップ&トレード、排出権が完璧で一切の問題がないとは言いません。
しかし、目標がないといつまでたっても達成されないことは何事にも共通することですので、数値目標と罰則を設定するキャップ&トレードは必要ですし、その裏返しとして、インセンティブがなければ、その削減をお金に換える排出権といった仕組みも必要でしょう。
というのは、現在の風潮として、一般的には温室効果ガスの削減を自主的にする理由など、ビジネス的にはマーケティングやブランディング以上の意味がないという現実があるからです。
また、イギリスなどの欧州諸国が国際交渉、プロパガンダに長けており、二重にも三重にも網を巡らして、自分たちが得するように進めていることは十分見習って進める必要があると思います。
ここに関しては、日本の中だけで、日本語だけで、「正しい主張」をしていても仕方が無く、国家戦略として、海外の環境NGO、NPOを味方として巻き込んでいくといった努力も必要なのではないかと思います。
要は、いつまでもつまらないところで足踏みをしていないで、我々が炭素制約社会で生活をしているということを早く実感として持ち、そのことを前提として考えを重ねていくことが重要かつ得策なのではないかと思います。
そうすれば、「ものづくり日本」( 本当は「サービス作り日本」がベストだが、これはまた別の機会に書かせてください )として、競争力を保ちながら、この人類が直面する気候変動の問題に対しても日本らしい貢献をしていけるのではないかと思います。